<アイランダーサミット石垣2021>デザイン x Less is betterで食を見直す

 2日間に亘り、石垣島のフサキビーチリゾートホテル&ヴィラズを拠点に開催された島目線で社会課題を考えるプロボノ型イベント、アイランダーサミット石垣2021。今回は2日目に行われた、ガストロノミーに関するセッションについてレポートします。

〜地球と対話するジオ・ガストロノミー〜

 このセッションでは、アイランダーサミット総合プロデューサーの渡邉賢一氏がモデレーターとなり、ゴーヤカンパニー 伊良皆誠氏、八重泉酒造 前泊亜子氏、オランダ王国大使館 バス・ヴァルクス氏、デンマークロラン島 ニールセン北村朋子氏、料理人 佐藤陽介氏、辻調理師専門学校 尾藤環氏、ONODERA GROUP Group Executive Chef 杉浦仁志氏がパネリストとして食に関わる様々な立場のエキスパートとして議論を進めました。


「グレートリセット」がテーマのサミットであったため、モデレーターよりコロナ前後で変わった点について各パネリストに意見を聞くことから始まりました。お客様の減少とそれに伴う取引の見直し、出荷量の減少等が共通して挙げられ、根本的に酒造りの必要性も考えたが「人と人を繋ぐ和、距離を縮めるもの」になればという思いが語られました。また、料理業界では、フードシステムから温室効果ガスが多く出されており、コロナをきっかけにどう基盤整備を行うか、ヨーロッパを中心にグリーン産業化を強硬に進めるというのが世界の既定路線となったため、日本が国際的な役割を果たすために何をするかということを考えるきっかけとなったという点、ロラン島ではコロナに関係なく進めなければならない気候変動適応を柱として持っていたこと、同時にコロナ禍を上手く転換期と捉えて農業でもCO2排出量削減の閣議決定等、グリーン経済の推進を行なっている点が共有されました。これを受け、オランダも国土の1/4が海抜が低く気候変動への対応が迫られており、CO2排出量の高い農畜産業での対応も話題になっていること、「more is betterからless」へ量を減らす考えや食事をどう楽しむか、「Eating Design」という考え方が出てきていることが挙げられました。
 世界的にも「脱成長」が言われているが、鎖国時代を考えると、日本は既に「脱成長」を一度経験していると考えられ、島単位で見た時に文化や先人の知恵、食等、見直すべきものは足元にあるのではないかというモデレーターから投げ掛け、パネリストからは食に限ったことではないが、必要量を見極めて生産・消費していく必要性について指摘がありました。


 現在、辻調理師学園では留学生が増えていて、日本で調理を学ぶことが次の料理の世界へのヒントがあると考えられているそうです。アジアからは日本料理と西洋文化を吸収することを目的としている場合が多く、ヨーロッパからは日本の自然との共生感・食との連動性を見出し、特に島文化の場合は自然への畏敬が食文化にも反映されていて、ヨーロッパの人を惹きつけていると考えられるとのことでした。
 デンマークにおけるジオガストロノミーを見ると、これまでは日本と比較し、食への関心が低く、楽しむというよりは燃料補給のような形で食事をしていたが、2003-2004年の「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新北欧料理)*」 が提唱され、一気に変わったとのこと。これを契機に一般の人にも伝えようという動きが出て、親子の料理教室等も行われているそうです。Nomaのレネ・レゼピ氏との話でも、日本のように「必然性」のストーリー作りが非常に難しく、コースの順番や空間のしつらえ、器をはじめ、「なぜこれを使うのか、この順番なのか」等を必然性の哲学を学びたいと話題になることが多く、日本が食で世界に貢献できるのではと感じるとパネリストから話題提供がありました。
*2003年にコペンハーゲンのレストラン「noma」が始めた料理ジャンルのこと。自然との調和や地元の重視、食べる人の心を動かす食体験等の精神が根底に流れる料理。

 代替肉が出てきたり3Dプリンターで食品を作る技術も出てきて、食べ方・食べ物が変わる中で見つめ直すべきものも出てきていると思う、地球と向き合う・寄り添う中でどのようなことを心掛ければ良いか?とのモデレーターからの問い掛けに対し、代替できないその地域にしかないもの、土地から与えられるものを大事にしたい、誰と食べ・どのような時間を共有するかも「味」の記憶に影響し、現代の3Dプリンターで作る食材等では「心を満たす」ことは表現できない部分、日本人は旬をとても大切にしていて、侘び寂びや情緒とともに食が進化してきたように感じる、食事は単なる栄養ではなく、心と体を繋げるものといった意見が出されました。
 また、多様性に対してどれだけ理解を示すのか、例えば成人病・疾病に対する対策や体のメンテナンスをするためにビーガンを取入れるケースがあるが、地球のエネルギー消費に対する対策としてもメリットがあること、アイントホーフェン大学フォードデザイン学部では脳科学+デザインの領域をベースにお皿に陶磁器を置き、その周りに料理を盛り付けることで、少ない量でも満足感・満腹感を得られるということが研究いることが紹介されました。これを受けて、アートを見て満足する脳の領域と、盛り付け・食事で満足する領域が同じであることがパネリストより述べられ、パネリスト間での新たなプロジェクト立上がりの可能性が垣間見えた一瞬でした。
 この他、レストランとクリニックの中間のような、少し体調が悪い・不調と感じた際にアドバイスがもらえたり、食材・調理方法を相談できて、家でも実践できるような所があると面白いのでは、という意見が出される等、様々な立場から活発な意見が出されたセッションでした。


アイランダーサミット石垣2021: http://islander-summit.world/2021.html

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