ようやく世界的にコロナ禍によるMICE開催低迷から回復を実感できるようになりましたが、中でもコロナ禍以前のようなプログラム実施等、欧米が先行してリアル開催へのシフト傾向にあったように思います。この3年間、オンライン配信やハイブリッド開催等、色々な取組みや工夫がなされる一方、サステイナビリティの重要性がこれまで以上に叫ばれるようになりました。
このような中、2022年にIEEEが「イベントサステイナビリティガイド」を発行し、様々な示唆を与えています。誘致や受入準備をする都市・施設等も要望事項の理解に役立つと思いますので、ご紹介いたします。
Contents
〜イベントのサステイナビリティとは何か?〜
本ガイドラインでは、「環境・社会・経済の観点から設計・組織・制作する」ことをイベントのサステイナビリティと位置付けています。経済的観点からだけではなく、環境や社会的責任に配慮することにより、参加者の体験を向上させ、コスト削減、参加者やサプライヤーの行動の変化を促し、環境と地域社会双方に利益をもたらすことができると説明しています。
〜なぜイベントがサステナブルであることが重要なのか?〜
サステイナブルイベントを成功させるとより強くブランドイメージを構築できます。スポンサーもイベント主催者のサステイナビリティの取組みに共感し、関与してくれる可能性があります。また、地元食材や事業者を採用することにより、輸送費のコストダウンや排出CO2の削減にも貢献します。印刷物をデジタル化することで同様の効果を生み出します。
〜イベントパートナーにサステイナビリティへの関心を持たせる〜
実行委員会に関心を持たせる
主催者は、よりサステイナブルな開催モデルへ移行することの価値を理解しましょう。サステイナブルなイベントを推進する主なメリットは環境に良い影響を与えることですが、イベント予算や業界内での評判を高める戦略的な決断にもなり得ます。サステイナブルな目標による財政的な節約によって、イベントは他の分野で成長することができます。また、サステイナブルイベントとしての評判が高まれば、興味・関心が一致するスポンサーや参加者を惹きつけることができます。
サステイナビリティの目標について早めに話し合いを始め、共有の行動計画を策定するようにしましょう。小さなサステイナビリティの目標も、100%サステイナブルなイベントを行うことと同様に重要です。
他のサステイナブルイベントで成功した指標や統計データを使って、サステイナブルな目標に取組むことに懐疑的な委員会メンバーを説得することも検討しましょう。
会場探し
Events Industry Council (EIC)では「Sustainable Event Standards」のガイドラインを作成、適性基準を満たした会場をサプライヤーリストに掲載しています。地元コンベンションビューローに問合せ、利用可能なガイドラインやベストプラクティスを確認しましょう。
多くの会場では、すでに独自のサステイナビリティ方針を持っています。契約時に必ず確認し、最終的な契約書にその目標を盛り込みましょう。実行委員会が会場に期待する具体的なサステイナビリティ目標がある場合は、RFP(提案依頼書)にその目標を記載し、契約書に署名する前に、その目標が契約書に盛り込まれていることを確認するようにしてください。
参加者の移動を減らすことはサステイナビリティ目標に大きな影響を与える簡単な方法です。参加者が簡単にアクセスできる会場を選びましょう。
サステイナビリティ目標を共有できる事業者探し
会場と協力し、イベントのサステイナビリティビジョンを共有する地元事業者を探しましょう。その事業者がどのように廃棄物を最小限に抑えているか、サステイナブルな製品を使用しているか、食品や商品サービスを地元業者から調達しているか等確認しましょう。
参加者の巻込み
イベントのサステイナビリティ目標はコミュニケーションプランの一部であるべきです。イベントのウェブサイトや会期前後にどのような計画かを参加者に共有しましょう。
具体的には、水筒の配布とウォーターサーバーの設置等、環境に優しく再利用が可能で役立つグッズや参加者が会期中に使用する機会の提供、プログラムや資料のアプリ利用を参加者に促し目標達成に貢献してくれた参加者への感謝、デジタル化により削減できた紙の量やサステイナビリティ目標の達成度・削減コスト等、成功指標の提示が挙げられます。
〜サステイナビリティ目標を達成するための8つの方法〜
ここではイベントのサステイナビリティ目標を達成するために焦点を当てるべきポイントを見ていきます。
1. 水の使用量削減
多くのホテルでは複数日滞在する場合にリネンやタオルを毎日洗濯しなくてもよいというオプションを提供しています。このような項目を契約書に盛り込んだり、イベント前に参加者に伝えるとよいでしょう。またウォーターサーバーの設置やピッチャーでの水の用意も効果的です。
2. 廃棄物削減とリサイクル
会場に分別のラベル付きゴミ箱の設置は必須です。紙の配布資料を減らし、デジタル化への移行や印刷が必要な場合は必要な分のみ印刷しましょう。また、実際に使ってもらえるギブアウェイの選択、クーポンや体験等を試してみることもよいでしょう。再利用、リサイクル、または地元の学校や保育所に寄付できる製品で作られた看板も一案です。食事の際はビュッフェスタイルの「自分でつかむ」のではなく、「小分け提供」を会場に働きかけましょう。
3. 食数の適正化
飲食を伴うイベントは出欠確認をし、必要数の注文や数量調整します。プラスチック製やリサイクル不可能な皿、コップ類の使用はやめましょう。プラスチックの包装紙や容器に入った包装済み食品も控えます。会場に地元食材の利用や開催地の旬の食材利用の依頼、余剰食材の寄附も確認しましょう。契約段階でも、イベント前でも相談が可能です。
4. 代替交通手段
代替交通手段を提供することで移動に際してのCO2排出量制限に役立ちます。市内や主要空港への移動に便利な公共交通機関のある会場の選択や、イベント前に参加者に公共交通機関の詳細な地図を提供し利用促進することも有効です。メイン会場外でのイベントは徒歩圏内や公共交通機関でアクセス可能な場所を選びます。また、徒歩移動希望者にデジタルで提供できるマップを用意します。開催地自体も平均的に会場到着まで何回飛行機を乗り継ぐ必要があるか等の視点でも検討します。
5. エネルギー保全
太陽光等の代替エネルギーを利用する会場を探しましょう。事業者や会場がエネルギー効率の高いデバイスを使用していることを確認してください。また照明によるエネルギー消費を抑えるため、自然光や窓が多い会場を探しましょう。使用しない会場の照明・機器の電源オフ、参加者にも使用しない機器類の電源オフを呼びかけ余分な充電の必要性もなくします。
6. 開催地の商品、労働力を調達する
イベントのカーボンフットプリント削減に貢献し、地元の事業者を雇用することで開催地経済の支援に繋がります。イベント資料や看板の作成・印刷を地元で行うことを検討します。開催地の旬の食材提供も依頼しましょう。
7. 効率化によるコスト削減
計画プロセス初期の段階で全てのステークホルダーに参加してもらいましょう。食品の過剰注文を避けることにより廃棄物を減らし、コスト削減に効果的です。印刷物を減らすことでリサイクルの手間、手配コスト両方の削減につながります。看板やギブアウェイなどは複数年に亘り使用できるものを注文しましょう。材料を現地で購入することにより輸送コスト削減も期待できます。
8. 健康で安全なイベント環境づくり
緊急事態は、いつ、どこででも発生する可能性があります。 大規模な自然災害や気象災害、火災、暴力行為、テロやパンデミック、事故、病気、死亡など、その内容はさまざまです。緊急事態が発生した場合、対応できる時間はほんの一瞬であり、取った行動はイベントだけでなく組織にも大きな影響を与える可能性があります。 その影響を軽減するために迅速に行動できるような、適切な計画一式を持つことが重要です。
〜イベントで成功する5つの簡単な方法〜
1. ペットボトルを給水機に代える
2. 抄録集やプログラムのデジタル化
3. 開催地での調達による輸送費削減
4. 再利用できるサイネージの注文
5. 使用していない会場の照明や機器類の電源オフ
IEEE「イベントサステイナビリティガイド」から参考になる方針や取組み事例をご紹介いたしましたが、ここ数年は欧米での関心の高まりを感じます。弊社でも提案段階で制作物の素材証明を求められることもありますし、国際会議誘致の際に招致委員会の男女比を気に掛けていらっしゃる主催者のお話も伺います。
取組みの必要性を感じているMICE関係者は多い一方で、取組み自体はこれからという方も多いのも事実かと思いますが、IEEEがこのような詳細なガイドラインを出したことにより追随する学協会の増加が考えられること、2030年までのSDGs達成に向けよりサステイナビリティの動きが加速することを考慮すると、まずは1歩を踏み出しできることから始める必要性を感じます。
IEEE Event Sustainability Guide 2022: https://ieeemce.org/planning-basics/ieee-event-sustainability-guide/
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