<ワイン>気候変動がワイン造りを変える〜シャンパーニュにもたらす影響〜

地球温暖化は世界のワイン産地に様々な影響を与えています。ブドウは年平均気温が10〜16℃の温暖な気候で生育しやすいため、ワインの生産地は北半球・南半球の緯度30〜50度に位置していますが、各地での気温上昇や干ばつ、山火事の頻発等で、ブドウやワイン生産に適さなくなる地域が出てきているのです。今回はシャンパーニュ地方にフォーカスし、見ていきます。

イメージ写真です。本文とは関連ございません


〜気温上昇はメリット?デメリット?〜

シャンパーニュ地方では、平均気温が1961〜1990年の30年で1.1℃上昇しています。シャンパーニュ委員会によると、気温上昇によって以前と比較し近年は2週間ほど収穫日が早まっており、2018年には過去15年で5回目となる8月中の収穫開始となりました。以前は気温が上昇することでブドウが成熟しやすくなると、温暖化を前向きに捉える傾向があったようですが、平均気温が上昇し続ける現在は、特徴である生き生きとした酸味が失われる可能性、季節外れの寒さによる霜害等気候変動による懸念が高まっています。

醸造用ブドウの新芽


〜ワイン業界で世界初の二酸化炭素排出測定〜

シャンパーニュ地方はブルゴーニュ系のブドウの栽培北限(北緯49度前後)に位置します。気温や日照時間、降雨量等の気候条件にブドウの品質や収穫量が大きく左右され、気候の重要性を実感しているためか、サステイナビリティへの取組みも早いものでした。

2003年にシャンパーニュはワイン産地として世界で初めて二酸化炭素排出量の測定を取入れました。また、二酸化炭素削減に向けた5つの方針を掲げ、取組みを進めています。

〜シャンパーニュ地方で取組む5つの方針〜

方針1-ブドウ栽培事業とワイン醸造
・トラクターのエネルギー消費抑制
・ブドウ栽培地土壌の窒素酸化物排出(窒素肥料)の削減
・防霜対策の影響抑制
・バイオマス計画の導入
・ビオロジック農法によるブドウ栽培や、持続可能な栽培の促進
・ワイン造り工程全体の最適化、特に醸造工程でのエネルギー消費抑制
・醸造業者でのエコロジーな取組み促進、支援

方針2-輸送
・人の移動による影響の削減(日々の通勤、業務出張、見学者やワイナリーツアー客の移動)
・入出荷の貨物輸送をできる限りクリーンな方法に変更

方針3-建築物
・エネルギー消費の抑制、建築物の断熱性能の向上
・再生可能エネルギー使用の促進
・持続可能な建築物の推進

方針4-物資やサービスの責任ある購買
・エコロジーフットプリント、気候フットプリントの低い物資やサービスの責任ある購買方針支援、推進
・シャンパーニュ出荷時の梱包の影響抑制(ボトル、パッケージ)
・化石資源由来の肥料や資材のバイオマス製品化(アナクサゴラス計画)

方針5-共通の取組み
・シャンパーニュ業界独自の二酸化炭素計算機作成、全生産者のアクセスを可能に
・業界関係者の意識改革教育、診断と行動計画作成支援
(引用:シャンパーニュ委員会 Climate Change Adaptation in the Champagne

この結果、2018年までに2003年比でボトルあたりの二酸化炭素排出20%削減(ボトル重量の7%軽量化による)、窒素肥料等の50%削減、産業廃棄物のリサイクル率90%、ワイン生産過程で出る廃水と副産物のリサイクル率100%、シャンパーニュ地方の面積20%の環境認証取得を実現をしました。
今後に向けては、「2030年までに全ての農場で環境認証を取得」、「2050年までに除草剤ゼロ」という目標設定をしています。さらに、「生物多様性」「カーボンフットプリント」「ウォーターフットプリント」の3点のエコロジカルフットプリント削減に向けて努力しています。

〜老舗が推進するチャレンジ〜

シャンパーニュ地方のワイン造りは、その年に獲れたブドウから作るベースとなるワインに、異なる収穫年や品種等のリザーブワインをブレンドすることで味や品質の均一化を目指すことが一般的(ノン・ヴィンテージ)です。リザーブワインのブレンド比率は明らかにされることはなく、ブレンダーの腕の見せどころ・ワイナリーの企業秘密でした。そんな中、ルイ・ロデレール社では「コレクション」という商品で新たな取組みを始めました。それは、過去にリリースした商品と味の均一化を目指すのではなく、その年に収穫されたブドウの個性を味わいに反映させること。リザーブワインの年やブレンド比率も公表することにしたのです。

世界最古のシャンパーニュ・メゾンであるルイナール社は「セカンドスキン」というパッケージを2021年夏より導入しています。天然木質繊維に天然の金属酸化物を添加したセルロース混合物を合わせた100%リサイクル可能な素材を使用。光の透過による品質劣化を防ぎながら、従来のギフトボックスより9倍軽く、二酸化炭素排出量の60%削減を実現しています。

テルモン社は最もサステイナブルなシャンパーニュ・メゾンであることを目指し、革新的な試みを行なっていますが、一例として、外箱やギフト包装材の製造と使用をやめています。また、100%リサイクル可能な緑のボトルに切替え中です。

MICEのレセプションで乾杯によく使われるシャンパン。大手メゾンが自社イベントを行ったりもしますし、MICEと関連の深いアイテムです。個々の取組みに加えて、地域全体でサステイナビリティを推進するシャンパーニュ地方に、今後も注目していきたいと思います。

シャンパーニュ地方のブドウ畑

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