大阪・関西万博に行かれた方も多いと思います。前回は公共スペースを中心にサステナビリティに対する取組みを紹介しましたが、今回は訪問したいくつかのパビリオンについて紹介します。万博といえば、各国・地域が外観のデザイン性を競うパビリオンが軒を連ねるというイメージがありますが、今回の万博はそういった派手さから一歩引いた印象です。前回も触れましたが、全体として外観に木材など自然素材を使用したパビリオンが多いということに気がつきます。いかにサステナビリティに取り組んでいるかを外観から示しているものと思います。それではパビリオンの内部ではサステナビリティをどう表現し、持続可能な未来を築こうとしているのか、今回はシンガポールパビリオンをご紹介します。

パビリオンのテーマは”Where Dreams Take Shape”(ゆめ・つなぐ・みらい)。 外観は大きな赤い球体を中心に構成された建築で、「ドリーム・スフィア」と称されています。球体にはうろこ瓦を思わせる赤く薄い板が無数に貼られています。また、このパビリオンは象徴的・概念的な呼び方として「ドリーム・レッド・ドット」とも言います。「ドリーム・レッド・ドット」の名前は、1998年にインドネシアの大統領が、シンガポールを地図上で「リトル・レッド・ドット」と表現したことに由来します。当初は侮蔑的な意味も込められていたようですが、のちにシンガポールはそれを逆手にとり、ポジティブな意味で使うようになりました。本パビリオンにも「小さな赤い点」でありながらも、夢や未来を形にする力をもつ国であるというメッセージが込められています。
この球体のデザインは「青海波(せいがいは)」と呼ばれる扇状の波模様が繰り返し描かれた日本の伝統的な模様を取り入れているとのことです。青海波は幸福や平和な暮らしが未来永劫続くようにという願いが込められた縁起のよい柄とされ、開催国の伝統にリスペクトしながらテーマを具現しています。
シンガポールパビリオンは持続可能性を強く志向した建築です。設計、建設、運用に至るまで、4RすなわちRenew(再生)、Reduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源) のアプローチとサーキュラリティ(循環性)を取り入れています。具体的には、次のとおりです。
【Renew】
屋上の太陽光発電により、6か月間の博覧会開催期間中、約15,000kWhの再生可能エネルギーが生成されます。これは最大約77台の電気自動車に電気供給できる供給量であり、また電気自動車1台が大阪・東京間を往復できる電気量になるそうです。
【Reduce】
造園においては点滴灌漑という植物の根元に水を少量ずつ直接滴下して供給する方法を採用しています。これにより、水の消費量を約 60% まで削減できます。これは 1 日当たり 500ml のボトル約 2,800 本分の節水に相当するとのことです。
また、パビリオンの建設は、各部材にモジュール化され、標準化することで効率的な組み立てが可能となり、建設に必要な時間と人材を削減でき、従来の建設方法と比較して廃棄物の発生を抑えられています。
【Reuse】
家具、備品、設備などのインテリアの選定は原則として循環型のデザインを取り入れ、万博終了後も再利用できるように設計されています。
【Recycle】
「ドリーム・スフィア」のファサードをうろこ瓦のように覆っているアルミニウム・ディスクの 70% は、使用済みリサイクル素材で作られています。新しいアルミニウム・ディスクの代わりにリサイクル素材を使用することで、約 70 トン分の CO2 排出量を削減でき、これは、年間約 2,500 本の木が吸収する炭素排出量に相当するとのことです。 さて、中に入ると、来場者はシンガポール出身のアーティストの制作による没入型、体験型のいわゆるインスタレーションの世界に引き込まれます。3部構成のストーリーとなっており、人々の成長・繁栄・帰属への希望、動植物との調和・共存、そして夢を現実に変える過程を体現しています。最後は各自ドリームディスクに夢を描きます。その描いた文字や絵を両手で掬って放すと、文字は光になって空中に消えますが、やがて書いた夢が筆跡もそのまま天井に現れ、無数の夢やアートと共に夜空を泳ぎます。隣で「政治家になる」と書いた子供の夢も高く飛んでいました。





なお、シンガポールパビリオンでは、「持続可能で革新的な都市ソリューション」をめざし、ビジネス&パートナー向けのイベントも行っています。ここでは持続可能性 、自動化、食料システムのレジリエンス(強靭性)、気候変動、インクルーシビティ(社会的包括) などのテーマで、講演や座談会などが行われています。
面積では小さくても、幸福な未来を実現するというシンガポールの大きな夢と強い意志を感じさせるパビリオンでした。
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