<海外情報>ウクライナ危機へのイベント業界の反応、広がる支援

観光は数十年も前から平和産業であり、「旅行は平和へのパスポート」と言われてきました。2月末から続くウクライナ危機の報道や在ウクライナ知人のFacebook等を見聞きすると胸が痛みます。MICE業界でも様々な反応が出ており、私が所属するMeeting Professionals International(MPI)でもロシアにある企業との取引停止、支部設立計画の一時停止を発表していますし、国連世界観光機関(UNWTO)でもロシアの加盟資格停止を検討する臨時総会の開催を決定しています。
SDGs経営では、自社事業に社会の課題解決に繋がる活動をどのように組込み、課題解決と経済発展の両立を目指すかを重視しています。MICE関連企業のウクライナ危機への対応で、これに該当する事例が紹介されていましたので、ビジネスイベント業界団体の対応とともに紹介します。

〜チームメンバーの安全を守るために繋がり続ける〜

イベントテック企業のBizzabo社は、ウクライナにもオフィスがあるため、この状況をより厳しく捉えています。Bizzabo社の共同創業者兼CEOのEran Ben-Shushan氏は先週、LinkedInに「Bizzaboの従業員とその家族が避難し安全に過ごせるよう、資金援助や追加のサポートなど、チームを支え続けることを約束します」と投稿しています。Ben-Shushan氏はインタビューの中で、Bizzabo社はここ数週間、様々なシナリオを想定して準備してきたと説明し、侵攻が始まる前からスタッフには避難のための給付金を用意していたと述べました。

PwCルーマニアも侵攻に迅速に対応、800人以上のPwCウクライナ従業員に対して同様の約束をし、輸送、ルーマニアへの避難支援、紛争から逃れ国境を越えた避難先での住居と継続的な財政支援を約束しました。

Bizzabo社は、その幅広く豊富なリソースを活用して、地域の他のイベント産業ネットワークとの連携も図っています。例えば、従業員が支援を必要としているかどうかを1日2回チェックできるボットを作成し、そのコードをオープンソースプロジェクトとして公開、他の企業がチームと連絡を取り合うのに利用できるようにしています。
Ben-Shushan氏は「我々は、同じくウクライナにチームを持つ他の企業と密接に連絡を取り合っています。より効率的に情報を共有し、一緒に計画を立てられるよう、共同リーダーシップコミュニティを開設しました」と述べています。

キエフ イメージ写真


〜認知度向上と募金活動の推進〜

イベント業界は一般的にエンゲージメントと話題作りが重要です。ウクライナの人道的活動に対する認識を高め、寄付を促す取組みが出てくることも自然の流れと言えるでしょう。イベント業界の主要団体は、紛争に対する遺憾の意と、ユニセフや赤十字等NGOへの寄付を奨励する声明を発表しています。

これらの声明のトーンは多様で、基本的に中立と思われるもの、ロシア国家を強く非難するものもあります。より外交的なものでは、ICCA(International Congress and Convention Association)会長James Rees氏が「すべての国の政府は敵対行為を終わらせ、この紛争の平和的解決交渉に向けたあらゆる努力をするように」と呼びかけ、ロシア自体への批判は慎重に避けています。UFI (Union of International Fairs/ The Global Association of the Exhibition Industry)は、「人道支援を直接行っている地域の多くのUFI会員の活動」を称賛し、国際赤十字やユニセフへの支援を呼びかけるなど、やや直接的なアプローチを取っています。

PCMA(Professional Convention Management Association)はやや語気が強く、「ウクライナの人々に対する不当でいわれのない攻撃」を非難し、「我々は戦争や罪のない一般市民に対する悪行に対して団結して立ち向かう」と宣言しました。ExpoPlatformのCOOであるTanya Pinchuk氏も同様に直接的で、LinkedInに世界中のチームメンバーの動画を投稿し、「英国、インド、米国、フランス、ポルトガル、そしてロシア国内の同僚も、ExpoPlatformの全チームは近代民主主義に対するこの邪悪でいわれのない攻撃に対して団結し、ウクライナを支援(#StandWithUkraine)しています “とキャプションを付けています。

スロベニアに拠点を置く展示会主催者Conventa社は、3月4日にオンラインイベントを実施し、公式声明よりさらに踏込んだ活動をしています。このイベントは、紛争に巻き込まれた人々が、Conventa社と繋がるイベントプロフェッショナルに自身の体験を直接伝える機会を提供することに特化したもので、「LIVE from Ukraine: This is how you can really help」と題し、YouTubeに投稿され、継続的な支援につながることが期待されています。

〜グローバルイベントやネットワークへのロシアの参加制限〜

ロシアへの制裁を求める世界的な動きに伴い、一部の団体やイベントでは、程度の差はあるものの、ロシアから財政支援を受けている人や財界エリートの国際的なイベントコミュニティーへのアクセスを禁止しています。

例えば、MPI(Meeting Professionals International)は「ロシアにあるすべての企業との取引を直ちに停止する。また、ロシアでの正式な支部設立の計画も一時停止する」と発表しています。MPIは現在、ロシアでの取引が限られているため、これほど早く強い姿勢を示すことが可能だったのかもしれません。

世界的に有名な国際数学会議(ICM)を主催する国際数学連合(IMU)は、2022年ICMがサンクトペテルブルクで開催される予定だったため、特に難しい立場にありました。実際に、侵攻のかなり前から開催地変更の動きが始まっていました。IMUは戦争勃発まで対面での開催を中止しなかったものの、ICMをバーチャル開催への移行計画を発表したことで、ロシアのウクライナに対する侵攻を強く非難しています。

〜ロシア人参加禁止が一筋縄ではいかない理由〜

政府による制裁を強化するために、民間企業における取引停止等の動きが広がっていますが、その方法については賛否両論です。ただ、ロシア国家と公式な関係を持つ者、及びイベントへの参加を通じてロシア経済を活性化させる立場にある者の2者は排除する必要があるという点では、大方の意見が一致しています。

IMUはサンクトペテルブルクでの対面開催キャンセルに加え、ロシア国家の公式代表がバーチャル会議に参加することも禁じています。しかし、国家に属さないロシア人の参加は認めているようです。「すべての数学者はICMの活動に参加できる」と、学会ウェブサイトに記載されています。IMUは学術界と地政学的な世界において明確に線引きし、「ICMは世界中の数学者が集まり、政治や文化の違いを脇に置いて、数学について議論するユニークな場である」と主張しています。

IMEXでも、「2022年IMEXフランクフルトでロシアの国営企業の参加を停止する」と決定した際、微妙な区別をしています。 一見すると、この方針は一律に禁止されているように見えますが、IMEXに出展するコンベンションセンターやDMOは、各国政府と結びつきが強いことが多く、その国の公式パビリオンで出展するのが一般的です。そのため、ロシア国家に関係する人物を排除することは、事実上、ほとんどのロシアからの参加者を排除することになりますが、個々のロシア人と国家やプーチン政権と直接関係のあるロシア人を明確に区別することができるようになります。「この業界で働くロシア人は世界中におり、彼らや彼らが働いている企業を差別するつもりはありません。私たちにとっての境界線は、ロシア国家の資金の恩恵を受けないこと、そしてその恩恵を与えないことです」と、IMEX CEO Carina Bauer氏は語りました。

払戻しの問題に関しては、SWIFT銀行システムが現在ロシアで機能しないため、登録料を払戻そうとする必要はなく、IMEXは難しい決断をせずに済んでいます。

ウクライナ国旗をモチーフにしたフラワーアレンジ


〜イベント・ホスピタリティ業界、クリエイティブに物的支援を〜

企業のリーダーシップに加え、イベント関係者や業界の有力者もネットワークを活用し、ウクライナの人道的ニーズに非常に的を射た方法で応えています。

例えば、KUDO CEO Ewandro Magalhães氏は、「ウクライナの住民や難民の救済活動を支援する取組み」として、NGOやボランティアに同社の翻訳サービスを無償で提供しています。

Chili PiperのCEOで共同設立者のAlina Vandenberghe氏はTechfugeesと提携し、ニーズ別の人道的支援のための最新リンクを掲載したGoogle Docを作成し配布するとしています。

イベントやホスピタリティ業界のプロフェッショナルは、大きなネットワークを持っているだけでなく、ウクライナから逃れてきた難民の増大するニーズの対応に必要なロジスティック・スキルを持っています。 PFKホスピタリティ・グループのCEO Michael Widmann氏は、先週、ウクライナから逃れてきた家族の友人を支援したことに触発され、「#HospitalityHelps」の取組みを始めました。このイニシアティブは現在、ウクライナ避難民に一時的に無料の宿泊施設を提供するオンラインハブを地域の複数のホテルパートナーに提供しています。これは、同じCSRの価値を共有する企業間のハイレベルで計画的な連携がいかに強力かを示す例と言えます。

同様に、ドイツとポーランドのコンベンションセンターも、避難民のためのシェルター提供に乗り出しています。テント村のようなプライバシーを確保した施設もあれば、一度に数千人を収容できるオープンコンセプトの施設もありますが、いずれも避難民が屋内で一夜を過ごすことができる点が重要なポイントとなっています。

〜草の根寄付金集め〜

また、イベント関係者個人が、草の根的な活動を組織するケースもあります。LinkedInのようなネットワーキング・ツールやテクノロジーによって、「#SupportUkraine」といったプロジェクトが生まれつつあるのです。Sean Specie氏、Shawn Cheng氏、Fab Capodicasa氏、Ronald Lim氏、そしてEngamioチームは、プロモーション、ゲーミフィケーション、エンゲージメントの手法を駆使して、寄付をするとリアルタイムに地図に表示されグローバルな連帯を可視化できるプログラムを作りました。

当初は、この活動への関心を高めるために、1時間のテレソン形式(長時間放送されるテレビ番組で慈善募金に用いられることが多い)のバーチャルイベントを行うことから始まりましたが、自分たちが作った「#SupportUkraine」というウェブサイトが、既に認知度を上げ、寄付を促す目的を果たしていることに気づきました。

個々のイベントプランナーが、共通の価値観のもとに協力し合うことで、特に効果的に人々を動員する新しいツールを開発することができる、とCheng氏は述べています。「私が言いたいのは、協会や業界がリードしてくれるのを待っていてはいけないということです。自分たちの力、あるいはグループの力で何かできないか。何かはわかりませんが、皆で考えていれば、いくつかのアイデアが巡ってくるかもしれませんし、実際にインパクトを与えるアイデアも出てくるかもしれません。」

一方、個々のイベントプロフェッショナルが、あるいはグループであっても成し遂げられることには限界があります。イベント関係者の中には、イベントプラットフォームを活用して、ロシアにおけるソーシャルメディアや独立系ジャーナリズムの閉鎖を回避することができるのではないかと提案する人もいます。しかし、ウクライナ侵攻に批判的なロシア人が国内で弾圧されていることを考えると、そのようなコンテンツの流通をクライアントが認めるとは思えませんし、一般的にイベントプラットフォームは、許可なく参加者にコンテンツを通知することは許可されていません。

イメージ写真です。本文と関連はございません


〜グローバル化の視点、採用オファー〜

イベント関係者や企業の多くは、この危機的状況に対応するため、緊急の人道支援、ロシアのビジネス部門への圧力、ウクライナにいるチームメンバーの安全確保に注力しています。その中で、ウクライナから避難してきた人たちの将来的ニーズについて、もう少し先を見据えた取組みを行っている企業があります。

InEvent社のCEO Pedro Góes氏は、「もしウクライナ在住のマーケティングやソフトウェア開発者で、ナイジェリア、南アフリカ、インドネシア、コロンビア、ブラジルに移住し弊社で勤務したい場合、ウクライナ国境(ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア)のいずれかの空港発の航空券代を弊社で負担、ポジションも提供します」と LinkedInで発表して注目を集めました。

InEvent社は複数の大陸にオフィスを持つリモートワーク企業であり、紛争から逃れてきた人々が応募できるリモートワークを提供できるとGóes氏は述べています。また、同社は情報提供やサポートレターの発行等、移転の法的サポートも可能な限り行います。必ずしも就労ビザを取得できるわけではありませんが、雇用オファーがあることは、移住するにしても大きな違いがあると言えます。
重要なのは、InEvent社のオファーは、ウクライナの市民権を持つ人に限定されず、この地域の人であれば支援対象である点です。

出典:MPI NEWS BRIEF March 7, 2022

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