原油価格が高騰していますが、観光やイベント参加者が減少するのではないかとMICE業界でも今後の行方が注視されています。この高騰は2022年のイベント企画にどのような影響を及ぼすのでしょうか?コロナ禍でのオンライン・ハイブリッド化は対面開催の小規模化や移動を伴わない参加者が増え、環境負荷が減ったとの見方もあります。燃料費高騰がイベントに与える影響と、CO2排出量そのものを減らす必要性について触れている記事がありましたので、ご紹介します。「出してしまったものをオフセットする」という考えから排出量自体の削減へと一歩議論が進んだ気がします。
〜燃料費高騰とその影響〜
対面式イベント業界が回復基調にある矢先、軒並み物価上昇に見舞われていますが、中でも燃料の高騰は突出しています。イベント業界だけが被害を受けたわけではありませんが、コロナ禍では最も大きな被害を受けた業界の一つです。このような苦難を経て、イベント産業はより効率的になり、この新たな挫折に備えることができたのでしょうか、それとも、さらに縮小してしまうのでしょうか。
燃料費は、ケータリング、宿泊費、音響・映像機器の手配等、イベント開催のほぼすべての側面に影響を及ぼします。
まず、原油価格はインフレに直接影響します。原油が高騰すれば、他のすべてのコストも高騰します。炭素によるエネルギー投入を必要とする製造や輸送は、インフレ抑制のために金利が引き上げられたとしても、ほぼ直ちに影響を受けることになるでしょう。
このことは、イベント会社のビジネスのあり方にも影響すると、制作やイベント管理、音響・映像サービスを提供するTimewise Events社の社長、Brent Taylor氏は述べています。
パンデミック時には、Timewise社は制作部門を閉鎖し、代わりに小規模なイベントからメディアを取り込み、バーチャル・イベント・プラットフォームを通じて発信することに力を注ぎました。Timewise社はカナダのエドモントンを拠点とし、パンデミック以前はアルバータ州全域で事業を展開していましたが、現在では状況が変わってきているとTaylor氏は言います。
「現場でのコストは、パンデミック前に比べて約2.5倍になっており、それによってビジネスの進め方やイベントの制作・配信にかかる料金に違いが出てきています」と、Taylor氏は述べます。その結果、Timewiseは以前よりはるかに狭いエリアで運営されるようになりました。「今のところ、エドモントン地域から離れることにはあまり興味がありません。トラック輸送のコストが高くつくだけですからね」。大規模な展示会のニーズに比べると、輸送機材は少ないとはいえ、都市間の移動にかかる燃料費は、地元業者との競争力を維持しながら吸収するには高すぎるのです。
Taylor氏は、自分の会社だけでなく、イベント分野でも現地化が進むと予測しています。「産業が復活するとき、地元や地域のイベントが最初に復活すると思います。現にそうなっています。」
原油価格の高騰に伴うインフレコストは、こうした困難に拍車をかけ、イベント関係者は利幅をぎりぎりに抑えなければならなくなります。また、もう一つの重要な収入源であるスポンサーシップにも影響が出るかもしれません。「燃料費の高騰は、あらゆるものに影響を及ぼします。出展する人は、飛行機で現地に行き、ブースを移動しなければなりません。そして、宅配便の送料はすでに高額になっています。このような現場価格によって、半年後にはどうなっているか、想像してみてください。」
〜長期的にはどうなるのか?〜
イベント業界の中期的な展望は、ある意味、かなり厳しいものがあります。しかし、この1年半を経て、まだ生き残っている企業の多くは、この嵐を乗り越え、さらに強くなっている可能性があることは注目すべき点です。Endless Events社の創業者であるWill Curran氏は、「この先、厳しい状況が続く中で、最終的に得られるものは他にもあるかもしれない」と述べています。
ひとつは、こうした価格高騰と対面式イベントへの回帰が重なるということは、自らをイベントの理想的な開催地として熱心にアピールしている中堅都市があるということです。ある意味、バジェット・デスティネーションなのです。
Curran氏は、プランナーや参加者は、交通費の増加を考慮し、より安価な都市を選択することで、交通費を相殺できるかもしれないと考えています。モンタナ州ボーズマンのような都市では、ヘッドインベッド(ホテルの客室が満室であること)、ケータリング、法的代理人などの費用が大幅に削減できるかもしれません。
また、最終的には、最も近い場所にあることが決め手となる場合もあります。「制作側としては、『いつも依頼している会社がシアトルにあって、2,000ドルのトラック輸送費が3,000ドルになった』と言うでしょう。そのため、相殺されたり、節約されたりすることがあるかもしれません」とCurran氏は言います。
〜燃料費高騰が間接的にサステイナビリティに貢献する可能性〜
また、Curran氏は、これまでとは違うやり方をするチャンスが到来していると考えています。「コロナ禍以前は、サステイナビリティが最大のトレンドの一つでした。トラック輸送コストの上昇に伴い、イベントを小規模化し、小規模で地元に密着した会場を活用することで、トラック輸送コストとCO2排出量を削減する動きが見られるかもしれません」とCurran氏は述べています。
さらに、このような動きはブランドの評判にも影響を与える可能性があります。ネットゼロを達成するためにカーボンオフセットの購入に頼るのではなく、状況に応じて実際にカーボン消費を削減することが求められれば、気候危機に真剣に取組んでいるというイベント主催者の評判を高めることができます。そして、Curran氏は、「私が学んだことが一つあるとすれば、CSRに関連する人々のブランドに対する認識についてです。CO2排出量の削減を強く促すことは、この課題に向き合う企業にとって、ブランド全体と優秀な人材の採用・維持の両面で長期的な利益をもたらすと思います」と語りました。
〜航空運賃の高騰がハイブリッド型イベントの需要をさらに押し上げる?〜
イベント主催者をハイブリット化へと駆り立てる要因のひとつに、パンデミックの最盛期に海外渡航が困難だったことが挙げられます。燃料費の高騰が航空券の価格を押し上げ、同様の影響を与えるのでしょうか?
Will Curran氏は、ハイブリッド・イベントの革新者であるにも関わらず、航空運賃の高騰が、イベント技術を駆使した複数のサテライト会場をオンラインで繋ぐハイブリッドモデルへの急速な移行を必ずしももたらすとは考えておらす、短期間、人々は2019年に戻ろうとするのでは、と述べています。
Curran氏は、C2やDream Forceのような大規模な会議が、1つのメイン会場と地域ごとに開催される同時開催のサテライトイベントという、このモデルを使ったイベント開発と予算化に投資をすれば、このアイデアは普及すると考えています。「参加者は、オンラインを望んでいるわけではありません。だから、ハイブリッド・イベントを行うには、ニーズを満たすプログラム作りをする必要があるという考え方が大切だと思います。少人数で行うイベントがどのようなものかを体験してもらうために、物理的な交流を持たせる必要があるのです」とCurran氏は言います。
このようなことがトレンドになれば、イベント全体の持続可能性を高めることにもなりますし、現在CO2コストが高いので、できるだけ削減しようという動きにも繋がります。長い目で見れば、こうした市場からの圧力は、最終的にはより効率的なイベント業界を生み出し、より高い利益とより良い持続可能性をもたらす可能性があるのです。
出典:MPI NEWS BRIEF March 17, 2022
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