執筆:インバウンド/MICEコンサルタント、JCCBシニア・フェロー 小堀 守 氏(元 日本政府観光局 参与)
2020年初頭から世界に蔓延した新型コロナ感染症により、「人々が集い、対面で意見交換、交流する場」としてのMICEを取り巻く環境は様変わりした。国際、国内会議の大部分はオンライン、或いはオンラインに一部対面も加えたハイブリッドに転換して開催されてきた。オンライン開催の長所は特に学会などでは遠隔地からの出席者を集めるのが容易で参加者数を増やせる点だ。コロナ収束後もハイブリッド開催が主流になると考えられる所以だ。
最近の動向では、9月末に第17回世界地震工学会議が仙台市でオンライン参加を中心にハイブリッドで開催され、10月中旬には国際スピン物理学会議が松江市でハイブリッド開催された。また、10月初旬にはIATA(国際航空運送協会)の定期総会が米国ボストンで2年ぶりに対面で開催された。ワクチン接種が主要国で進んだ今は、国境を越えた対面型MICEが再開し始めた状況と言えるだろう。
他方、世界がコロナとの闘いに明け暮れている中でも、SDGsの重要なゴールである地球温暖化防止に向けて、各国、産業界、企業等で脱炭素に向けた動きが一段と加速してきたことも見逃せない。先のIATA会議では世界の航空会社が2050年までに温暖化ガスの排出ゼロを目標とする決議が行われた。MICEにおいても主催者やその活動がサステイナブル(持続可能)かどうかが問われ、取組みを示さなければならない時代が到来したことを痛感する。
こうした流れの中で、日本のMICE開催自体もまた持続可能性の取組みが問われている。実際に、国連なども支援するGDSC(世界持続可能観光協議会)などを参考にしたMICE開催地の持続可能性を評価する指標であるGDS-Indexランキングも注目を集めている。世界のMICE業界全体が持続可能性に核心的な価値を置いたビジョン、戦略、取組みを競っているのだ。
オンラインやハイブリッド開催は脱炭素に向けた有力なソリューションであり、従来開催地が求めてきた対面型開催へのアンチテーゼにもなりうる。日本のMICE開催地・関係団体の多くは、これまで経済的価値、経済効果に重点を置いて活動し、SDGsの17の目標達成に向けて個別実施項目の列挙に留まるものが多かった。だが、今後は誘致や開催の前提として「持続可能性」への貢献や説明がますます求められるようになるだろう。今後、日本がMICE開催実績を積み上げていくためにも、より明確に脱炭素に向けた理念、活動の事例や実績を未来志向の日本型MICEとして世界に発信していくことが求められる。
プロフィール:
1977年 国際観光振興会(現 日本政府観光局)入構。国内各部局やロンドン、ニューヨーク事務所勤務などを経てコンベンション誘致部長、海外プロモーション部長、統括役、理事などを経て参与などを務めた。国際会議の誘致や海外に向けたプロモーションに長く携わり、日本コングレス・コンベンション・ビューロー事務局長も務め、全国のコンベンションビューローとのネットワークも豊富に有する。各種講演、寄稿経験も多数。
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